
全国の大学や高校などで上映活動が続けられているドキュメンタリー映画『蟻の兵隊』。
元日本兵の奥村和一さんの証言を通して、戦争とは何だったのか、そして戦争によって人間はどうなってしまうのかを描いた作品です。
そんな映画「蟻の兵隊」の上映会が今回、9/20(日)に三田市まちづくり協働センターで開催されます。その背景には、三田に残る戦争の記憶と、それを語り継ごうとする人たちとのつながりがありました。
今回、『蟻の兵隊』の監督であり、私自身の大学の教授でもある池谷薫先生とのご縁をきっかけに、上映会に至るまでの経緯や、この映画に込められた思いについて、お話を伺うことができました。
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映画が人をつなぎ、三田での上映へ
――今回、三田で上映会を開催することになったきっかけを教えてください。
池谷先生 今も全国で『蟻の兵隊』を、特に大学や高校などで上映する活動をしています。
なぜ続けているかというと、なんとなく日本も戦争に近づいてきているような印象を持っているからです。でも、そういうときに「戦争とは何なのか」ということを、実は誰も知らないんですよね。
『蟻の兵隊』は元日本兵が出演して、戦争とは何だったのかということに、ひたむきに、きっちり迫っていく映画です。
だからこそ、今ここで見てもらわなければいけない。
まずは戦争を知ってもらう。そして、戦争が起きると人間はどうなってしまうのかを知ってもらう。その思いで全国で上映しています。
そんな中、たまたま三田に梅ちゃんという方がいて、「三田でもやりたいな」という話をしたら、「やりましょう、やりましょう」ということになったんです。
そうしたら、三田空襲というものがあって、被害の歴史があり、それが語り継がれているという話を聞きました。
――映画をきっかけに、いろいろな人とのつながりが生まれたんですね。
池谷先生 本当に、映画は人をつなぐと思います。
『蟻の兵隊』は、そういう力が非常にある映画なんです。どんどん、こちらが意図しなくても人と人がつながっていく。今回もまさにそうでした。だから、そういうご縁を大切にしながら、これからもやっていきたいと思っています。

三田の歴史と家族の記憶から、戦争を身近に
――三田という地域で上映することには、どのような意義があると思いますか?
池谷先生 三田空襲という歴史があり、梅ちゃんをはじめ、さまざまな方のお話を聞く中で、「ああ、ここは戦争をちゃんと語り継いでいこうとしている人たちがいる地域なんだな」と改めて思いました。
そういう場所で『蟻の兵隊』を上映できることは、非常に光栄ですし、うれしいことだと思っています。
ただ、『蟻の兵隊』は、被害だけではなく「加害」というものにも踏み込んだ映画です。
三田の皆さんには、その部分もぜひ知ってもらいたいと思っています。
――戦争の記憶は、世代を超えて語り継いでいくことが大切なんですね。
池谷先生 元日本兵の奥村和一さんが、よく「おじいちゃん、おばあちゃんに戦争の話を聞いてごらん。そしたら、戦争が少し近くなるよ」と言っていました。
本当にその通りだと思います。
今の若い人たちにとっては、戦争というのは、もうひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんの世代の話になっています。
だから、どうしても「遠い世界の、遠い出来事」のように感じてしまう。でも、家族の中には戦争があるんです。戦場に行った人だけではありません。留守の間を守った女性たちもいる。それぞれの家族に、それぞれの戦争の歴史があるんです。そこに触れれば、戦争が少し近づくはずなんですよね。
「近しい人が戦争に行って、亡くなっていたんだ」と知ることで、戦争の見え方も変わってくる。
そういう意味でも、語り継いでいくことは必要だと思います。
残留兵たちが自らを「蟻」と呼んだ理由
――映画『蟻の兵隊』というタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか?
池谷先生 「蟻の兵隊」というタイトルは、僕が勝手につけたものではないんです。実は、残留兵たち自身が、自分たちのことを「蟻」と言い始めたんです。奥村さんたちは、国を相手に裁判をすることになりますが、最初から裁判だったわけではありません。
まずは国会に対して請願や陳情をして、「自分たちのことを知ってください」と訴えた。そのとき、それぞれがどういう事情で残留を命じられたのか、手記を寄せ合ったんです。そして、その手記を集めて文集を自費出版しました。
その文集のタイトルが「蟻の兵隊」だったんです。
つまり、「我々は蟻のように、ただ黙々と上官の命令に従い、戦後も戦争を続けた」という意味です。だから、残留兵たち自身が、自分たちを「蟻」と表現していた。
僕も、それはすごくいいタイトルだと思って、その名前を使わせてもらいました。
――「蟻」という言葉には、どこか力強さも感じます。
池谷先生 そうですね。蟻というのは、ただ踏み潰されて終わる存在ではない。
「踏み潰されてたまるか」という思いもあったと思います。
その蟻たちがちゃんと声を上げて、象を倒すくらいの勢いでやるんだ、というような思いも持っていたんじゃないでしょうか。
戦争は一生消えない——奥村さんが見せた心の傷

――奥村さんへの取材を進める中で、最も衝撃を受けたことは何でしたか?
池谷先生 映画の中でもネタバレになる部分ですが、やっぱり奥村さんが日本軍に戻ってしまうような場面です。
殺人訓練の現場に行って、事実関係を知る人が現れたとき、突然、険しい顔になって、その人を問い詰めてしまう。あれだけ戦争を憎み、反省している人の中に、まだ日本軍の「御霊」が残っている。そのことに気づかされてしまうわけです。
当時の軍国教育、軍隊教育というものが、それほど過酷だったということだと思います。もちろん、奥村さんにとってはものすごく気の毒なことです。
でも、その場面があったからこそ、僕たちは大切なことを学ぶことができる。それは、戦争というのは、一度起きてしまったら、その人の中から死ぬまで消えないということです。
戦争が行われている期間だけが「戦争」ではない。一生消えない心の傷を負わされる。奥村さんという人が、それを全身で僕たちに見せてくれた。
だから、あのシーンが一番印象に残っています。
今こそ若い世代へ。戦争を知り、考える最初の一歩に

――公開から20年以上経った今も、この映画が必要とされていることについて、どう感じていますか?
池谷先生 20年以上経って、今またこの映画が注目を浴びているというのは、本当に悲しいことだと思います。
一方で、今の時代のほうが、この映画を必要としているところもある。僕自身、作った人間としてそう感じています。まるで、今になって時代が追いついてきているようなところがあるんです。
それは残念なことではあります。でも、今その必要があるんだったら、やっぱり見てもらわなければいけない。特に若い人たちに見てほしいと思っています。授業などであれば、無理やりでも何でも、まず見てもらうことができる。
今回の三田での上映でも、若い人たちにたくさん来てほしいと思っています。三田国際高校の放送部の子たちも、ドキュメンタリーを撮ったりしていて、今回のことにも関心を持ってくれていると聞きました。そういう若い人たちと、また何かコラボレーションができるかもしれません。
ぜひ学校の中でも、今回の上映から何かが派生していってほしいと思います。
――最後に、『蟻の兵隊』を観る方へメッセージをお願いします。
池谷先生 三田には、三田空襲という悲しい被害の歴史があります。
ただ、『蟻の兵隊』は、被害だけではなく、加害というものにも踏み込んだ映画です。おそらく、皆さんが知らないことばかりだと思います。教科書でも、ほとんど習ってこなかった戦争の歴史が、この映画の中にはあります。
まずは、それを知ってほしい。そして、戦争について考えてほしい。
戦争は、起こしてしまったらどうにもならない。だからこそ、いかに戦争にならないようにするか。そこを考えるための、最初の一歩にしてほしいと思います。
さいごに
今回のインタビューに関連して、9月20日(日)には、三田市まちづくり協働センターにて、平和について考えるイベント「映画&対話『蟻の兵隊』―戦争のない世界へ―」が開催されます。
第二次世界大戦後も中国に残留させられた日本軍部隊を題材にした映画『蟻の兵隊』を鑑賞した後、池谷薫監督による平和学習ワークショップが開催されます。
映画を通して、戦争の記憶や平和の尊さについて考え、対話する時間が設けられます。
入場は無料。
平和について改めて考えるきっかけとなるイベントです。
ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。

映画&対話「蟻の兵隊」のイベント概要

- 日時:2026年9月20日(日) 13:30~17:00
- 会場:三田市まちづくり協働センター 多目的ホール (三田市駅前町2番1号 三田駅前一番館6階)
- 参加費:無料
- プログラム
・第1部 映画『蟻の兵隊』上映(101分)
・第2部 池谷薫監督による平和学習ワークショップ - お問い合わせ:SUNPEACE事務局
- Mail:peace.rally1945@gmail.com
- 企画担当:梅澤豊和(090-3995-2898)


